富士吉田市下吉田周辺サイン計画

ディレクション・設計:中川 宏文
グラフィックデザイン:浦川 彰太
イラストデザイン:小幡 彩貴
地図校正:富士吉田市役所富士山課
施工:有限会社タイメー

インターネットで「Japan」と画像検索すると一番に出てくる風景で、国内外問わず多くの観光客が訪れるようになった富士吉田市新倉山浅間公園。桜の季節には1日2万人もの観光客が訪れる超有名スポットでもあり、テレビなどでその風景を目にしたことがある方も多いのではないだろうか。

近年、富士吉田市は、イベントの開催(ハタオリマチフェスティバル)や、地域産業振興(織物工場のオープンファクトリー)、空き家ストック活用による市街地活性化(新世界乾杯通りやFUJIHIMURO)、観光プロモーション事業、サテライトオフィス推進など、産官学が連携してまちづくりに力を注いでおり、OFDAや東京理科大学坂牛研究室も5年ほど前から建築の観点からまちづくりのお手伝いを続けている地域である。

本プロジェクトは、浅間公園を目指して富士吉田を訪れた観光客を、市街地中心部の繁華街へと誘導するために、富士急行線下吉田駅を起点として、駅前や観光の目的地になるような場所に設置する地図付きの案内サインと、交差点など観光客が迷いやすい場所に設置する誘導サインの2種類を計画するものである。

すべてのサインを、溶融亜鉛メッキを施したフラットバーで富士山型に縁取りし、他の交通看板や店舗看板と差別化することで、離れた位置からでも共通の案内・誘導サインだと認識できるようにした。また、サイン自体に通し番号をつけることによって、観光客が次に目指すサインの位置を把握しながら街歩きできるだけではなく、地元の方々が観光客にお店を尋ねられた際に、「○番サインの近くに〇〇がある」と、番号を伝えるだけで大まかな道案内できるように工夫した。(中川)

麓の人々にとって、富士山は日常の一部になっている。富士山にかかる雲の形で天候の変動を、雪解けで見られる農鳥といった現象で季節の移り変わりや耕作時期を判断していた。富士山は気象サインとして機能していたのかもしれない。

そんな富士山の麓の町である富士吉田市に設置する案内サインのデザインを制作した。浅間公園へ向かう観光客をはじめ、西裏地区や富士吉田の町でおこなわれるイベント等、さまざまな目的に応じて地図や誘導、案内が機能するために、いくつかの特徴を取り入れた。

ひとつは、イラストレーター小幡彩貴さんによる、主要目的地を書き下ろしたイラストである。山梨を拠点に国内外で活動する彼女のイラストは、インターネットで検索して表示される「Japan」のシンボリックなモチーフや情景を、シンプルな線で描きおろし、実在する風景へと誘導する。

もうひとつは、各地図上に配置した、富士山との位置関係を表す記号である。方向を確認する目印としてはもちろんのこと、地元の人が無意識に規準にしているはたらきを来訪者にも体感してもらうために表示した。

看板上で記載した文字は、成田空港や都心等から外国人観光客のアクセスが多いということも考慮して、「東京シティフォント」で統一している。一方で、各看板の位置を示す数字は「アクチデンツ・グロテスク」という書体を選定した。飲屋街が広がる西裏地区などの風景に点在するレトロな看板文字のノイジーな面影を残した。

この看板も富士山のように町にとっての日常となり、地元の方々も利用するようなサインとして機能することを願っている。(浦川)