6章の1 写真
写真という媒体を選択した理由として、ロラン・バルト(Roland Barthes, 1915-1980)の写真論を参照する。バルトは、写真には2つの要素があるとしそれらをストゥディウム(studium)とプンクトゥム(Punctum)と名付けた。前者は写真の中から得られる私たちの知識や教養などの一般的関心にかかわる情報といった要素であり、後者はそうした一般的な関心を破壊するものであり、写真の場面から発し、見る人を突き刺しにやって来るものだという。そして、写真において重要なことはこの二つが共存していることだという。
ストゥディウムは写真の中に私たちが写真家の意図に共感し、理解し、学習する可能性を与える。また、プンクトゥムは写真にそれをみる人の数だけの在り方を与えると言える。
建築にもこのストゥディウムとプンクトゥムがあり、雰囲気とは実際にその建築を経験した人間に襲いかかってくるプンクトゥムのようなものだと考えることができないだろうか。雰囲気を記録するにあたり、両者の要素を持ち合わせることができる写真という記録媒体を用いることは適していると考える。