optical drops

設計 : 中川 宏文 / 比佐 彩美
構造 : 辻 拓也
検討プログラム : 桝井 孝暢
施工 : 滝口建築
加工・材料協力 : 松陽産業
溶接 : 渡淳鉄工所
写真:中川 宏文

 

Site

敷地は山梨県富士吉田市にある交通量の多い道路と建物との間にある細い三角形スペースで、もともとあった高さ2m近いコンクリートブロックの塀を解体し、そこに新しい塀と庭をつくるプロジェクトである。

道路沿いの建物は、昨年度、東京理科大学坂牛研究室の学生たちとともに改修を行った建物で、敷地に面する1階には移住希望者のための短期宿泊スペース、シェアオフィス、レンタルキッチンが並んでいる。(Fujihimuro)

一般的な塀を立てると、外部からの視線は断ち切ることができるが、本来その空間に入ってくる光や風なども同時に遮られてしまうことになる。しかし、この敷地は交通量の多い道路に面するため、ある程度の閉鎖感は欲しい。よって、光や風などの自然的要素を巧みに取り込みつつも、ある程度閉ざされた空間設計を目指すため、塀をつくるマテリアルは、開口率によってグラデーショナルに境界面をつくることができるものを検討し、それと同時に、できる限りそれらのマテリアルのみで自立するような形状をスタディすることとした。

 

Material/Form

いくつかの素材をスタディし、素材サンプルを集めていく中で、金属加工メーカーである松陽産業さんに本プロジェクトの金属加工に関する相談にのってもらうこととなった。

最終的には鉄板にレーザー加工で孔を自由に開けていく、所謂パンチングメタルを採用することとなり、その形状は三角形平面の連続によって屏風のように自立する折板構造を基本とする形状とした。鉄板の規格寸法、レーザー加工による歪みなどを検討しながら、構造計算によって、必要な鉄板の厚みや開口率を検討した。

また、最長の面の長さは約5mとなっていたため、5枚のパネルを溶接して1面を構成する必要があった。さらに、繋ぎ目の部分には開口をつくることが出来ない上に、1枚のパネルの縁には構造上ある程度の幅が必要とされた。

そこで、各パネルの孔を中心から溶接縁に向けてグラデーショナルに小さくしていくことによって、上記要件をデザインの条件として取り込み、開口率検討プログラム(Rhinoceros+Grasshopper)でその見え方を検討し、最終形状を決定した。

全体のかたちは、小さな家型のヴォリュームが連なったような建築になっている。

これは、薄いジグザクのパネルに三角形屋根をつけることで立体として構造的な強度を確保するためでもあり、ある印象的なかたちを与えることで、ジグザクの塀によってうまれた小さな庭に、ある程度の空間のまとまりをつくるためでもある。また、家型のかたちは、ここを尋ねて来る人たちの目印のようなものになると良いと考えている。

 

Phenomenon

ここでは、建築のフィルター(パンチングメタルの孔)に通すことによって、周囲に存在する無数の光の現象(単純に光だけでなく、ものがもつ色も光の現象のひとつである。)にかたちを与え、日常の中のモノゴトの些細な変化に人間の感官が反応できる状況を生み出すことを考えた。

太陽の光は1日を通してゆっくりと移動する「光の粒」に、周囲にある樹木や青空はそれぞれが持つ「色の粒」に、車のヘッドライトは「一瞬だけ現れる光の粒」に、日が暮れて室内に灯る明かりは暗い夜道を照らす「水玉模様の光」に。

晴天の日は光の粒がくっきりと現れ、曇りの日にはぼんやりとした光の粒が現れる。

この建築の周囲には光の現象が無数に存在し、その現れ方も刻々と変化する。

あくまでも建築は不動のものとしてそこに存在するわけだが、その周囲に存在する現象の変化と呼応する存在であることによって、人―建築―現象の関係が動的で、その一瞬にしか出会うことができない状態を生み出してくれるのではないだろうか。

今回のプロジェクトに限らず、建築があることで、日常の中に存在する些細な現象に人々の感官が反応し、それによって生まれる小さな感情の起伏を絶えず生み出し続ける空間をつくり出していければと私は思っている。